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2020年09月20日
受験には 全ての知識が 役に立つ
世間では4連休の2日目とされている今日でございますが、私めにとっては土日出勤の2日目にあたる次第でございます(毎週ではありませんよ)。そんな今日はあいにくの雨、肌に触れる空気が涼しくなったのが不幸中の幸いと申しましょうか、そんなひんやりした空気に触れていると、ふと一編の詩が、私を懐古へといざなうのでした―
秋の田のかりほのいおの苫を荒み わが衣手は露にぬれつつ
聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう、そう、かの百人一首で1番目の詩として収められているものにてございます。作者は天智天皇とされていますが、詠み人知らずという説もあるようですね。
さて、私が十ほどのころ、私の母は頻りに「百人一首を覚えなさい、今後役に立つから」とよく言っておりました。しかし当時の私、はっきり言ってそんなもの覚える価値がちっともわかりませんでした。だって、大昔の人が、今じゃもう使われてすらいない言葉でつれづれなるままにそんときの気分を描いたものでしょ?んなもん鼻息荒く覚えるなんていとワロスって感じで。もっと言うと、母の言う、「今後役に立つ」は骨の髄まで理解不能でしたね。
しかし、高校二年くらいのほど、私は過ちに気付きます。百人一首には、よく考えれば当たり前ですが、高校の古典で出るような文法やら単語やらが沢山出るわけです。たとえばさっきの詩の「苫を荒み」のところ。苫とは、カヤやスゲという草で編んだ覆いのことを言います。そしてこの部分は、現代語風に言うと「苫が荒い」という風に読まなくてはならないんですね。つまり、覆いの網目が荒いから、ろくに雨風もしのげやしないなんてことを意味しているわけです。
ここに出てくる、「...を~み」と書いて「...が~い」と処理するやつ、私も受験生の頃模試で出会った記憶があります。おそらく高校古典でも習うものでしょう。そしてもし、小中学生の時に百人一首を覚えていれば、この文法を使った例文が既に頭の中にありますから、いともたやすくすんなりと習得できてしまうという塩梅です。
母は小学生のころには百の詩を空でいうことができ、校内のかるた大会では他の追随を許さなかったと言います。とある名の知れた関西の国立大学に進むのですが、入學初日に教授から国語の二次試験が満点だったと明かされるという、怪奇伝説魑魅魍魎の類でございます。
かたや私は国語と言えば古典がいつもいつも対岸の蛇のように足を引っ張る始末、のらりくらりとやり過ごすうちにいつの間にやら流れぬ流浪人となります。百人一首をナメた罰が当たったのやもしれません。
みなさん、高校学習や大学受験では、本当に様々な角度の話題が出題されます。フォード車の創業、モルディブのトンボ、グーグル社の採用試験...どれも別に、これらの知識がなければ解けないということはありません。別に百人一首を知らなくとも古典が得意だという人も大勢いるでしょう。しかし、少しでもこれらのことを知っていれば、少なくとも「解きやすく」はなりそうですよね。
別になにか専門書を読みましょうとか、新聞を毎日読みましょうとかいうつもりは毛頭ありません。ただ私は、皆さんが、一学び人として興味や関心の幅を広く持ってもらえたらなと思うのです。逆に言えば、自分が理解できる知識や分野に、自分で制限をかけてしまわないでほしい。シャッターを下ろさないでほしい。だって、どんな知識が役に立つか分からないのですから。
なんでも自分の知識にしようという好奇心、そして一つ一つは無関係に見える事象の断片を、関連付けて考えられる思考力。そんなものを皆さんには持ってほしいし、私もそれが提供できたらと思っている次第でございます。皆さん、今後も共に頑張りましょう。ではまた。
大受英語科・木村
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