9
2022年02月13日
故人を偲ぶ
先日、作家の西村賢太が亡くなった。
大学時代から読んでいる作家の新作が読めなくなるというのは、私にとっては、最大の楽しみの一つが奪われたようなものである。
西村賢太の『苦役列車』が映画化されたとき、同じ研究室の先生(ご専門は代謝学)とその話題になった。
私が、「西村さんの文章が好きなので、映画には興味がないです。」と話すと、
先生は西村賢太にいくぶんか興味を示され、『苦役列車』のあらすじなど聞いて下さった。
その日の話はそれで終わったのだが、正月休み明けに研究室に来られた先生は、
「河野くん、西村賢太の作品全部読んだよ、あれ、むちゃくちゃ面白いな。」
私は驚いた。聞けば、西村賢太の作品だけでなく、西村が師事した藤澤清造の作品まで読まれており、
「それはもう、研究ですね。」と申し上げるしかなかった。
藤澤清造の歿後弟子を自称し、師への崇拝の念を結晶化したような西村の作品は、日本文学、特に、私小説において計り知れない影響を与えている。このような優秀な弟子を持つと、師としてどのような気持ちになるのか、藤澤清造に聞けるなら聞いてみたいものである。
英語科 河野
9